
転相温度乳化で作る滑らかクリーム
化粧品作りにおいて、乳液やクリームを作る際に欠かせないのが「乳化」という工程です。これは、本来混じり合わない水と油を混ぜ合わせる技術のことです。様々な乳化方法がありますが、その中でも温度変化を利用した「転相温度乳化」は、まるで魔法のような方法です。
転相温度乳化は、温度によって油と水の混ざり合う状態が変化する性質を利用しています。特定の乳化剤を使うことで、温度の変化によって油と水の親和性が逆転する現象が起きます。具体的には、ある温度(転相温度)より高い温度では、油の中に水が小さな粒となって分散した状態(水中油型)になります。この状態では、油がまるで水の入れ物のように、小さな水の粒を包み込んでいるのです。
ここからゆっくりと温度を下げていくと、転相温度で油と水の親和性が逆転し、今度は水の中に油が小さな粒となって分散した状態(油中水型)へと変化します。この時、最初に作られた小さな水の粒の中に、さらに小さな油の粒が閉じ込められるという、二重構造の乳化状態が生まれます。この状態からさらに温度を下げていくと、この構造が安定し、滑らかで質の高いクリームが出来上がるのです。
転相温度乳化の利点は、強い撹拌を必要としないことです。従来の方法では、高速でかき混ぜることで油を細かく分散させていましたが、転相温度乳化では温度変化がその役割を果たしてくれるため、機械の力に頼らずとも、滑らかで安定した乳化状態を作ることができるのです。まるで魔法のように温度変化だけでクリームが作れる、画期的な方法と言えるでしょう。